矯正治療 着手前
矯正装置 装着直後
矯正治療 終了時(装置装着から 約3年経過)
保定装置 装着時(取り外し可能 矯正治療終了後 約3年の装着が必要)
写真は、当院の歯科衛生士が 自身の歯並び改善のために、矯正治療を受けた時の写真です。
当院の歯科衛生士は、歯科従事者だからこそ知りえる 歯科業界の本質的な情報を持っています。
この情報をもとに
・勤務先の院長による施術ではなく 矯正専門医による施術(私は全顎的矯正は手掛けておりません)
・総合的判断のもと、やむを得ず上下左右の小臼歯を抜歯し
・マウスピース(アライナー)矯正ではなく
・舌側矯正でもない、唇側(表側)に装着する通常のブラケット + ワイヤーによる矯正治療
を選びました。
(小臼歯を抜歯する必要のない方、マウスピース矯正で間に合う方、舌側矯正が可能な歯並びの方もいます。)
先日、自身の歯並びを気にしていた女性芸能人 Fさんが、その改善のために、矯正治療ではなく 前歯上下左右3本ずつ 合計12本をセラミックの歯に置き換えることで矯正をした ということを、Twitter 投稿しました。
この投稿が 歯科医療関係者から多くの批判コメントを受け、炎上になったということがありました。
歯並びの改善をする場合には、矯正治療を行うことが第一選択となります。
しかし 矯正治療は 矯正装置の外観上の問題や、治療期間の長期化の問題があります。
そのため 矯正治療を受けることを ためらう方がおられるのも事実かと思います。
矯正装置の外観上の問題であれば、症例によっては その装置を歯の裏側に装着する舌側矯正をもってその問題を解決できる場合があります。
しかし、舌側矯正を採用しても、治療期間の問題に関しては解決が難しいものであるのが現実です。
このような問題に対して、主に審美・美容歯科を手掛ける歯科医院から『セラミック矯正 』『クイック矯正 』と呼ばれる施術が提案される事があります。
『セラミック矯正 』『クイック矯正 』とは、前歯を削ってセラミックの歯を製作・装着する過程で、歯の色や形に対する審美性を向上させ、歯の ねじれ や 位置のズレ を解消していく 方法です。
名前の通り、通常の矯正治療を行うよりも圧倒的な短期間で 施術が完了して行くことで、外観上の問題を解決できることがあります。
しかしながら、セラミックの歯を製作する過程で、見栄え改善 ” だけ ” のために 虫歯でもない健全な歯を削ったり、時には神経(歯髄)を抜く(抜髄:ばつずい と言います)処置を行う必要があります。
一般的には、抜髄をした歯は その施術が 完全・完璧であったとしても、強度・耐久性の問題によって一生レベルでの長持ちを期待するのが難しくなり、その後に生ずるトラブルには 莫大な苦痛(後遺症)や 費用負担を強いられる危険性があります。
その本数が多くなれば、時には数百万円単位の費用負担になることもあります。
ネイルアートに置き換えると、付け爪 や カラーリング のような感覚ではなく
・ 生爪を剥がして付け爪をする
・ 最終的には 指を切断する事になるリスクを抱える事もある
・その復元には、莫大な苦痛(後遺症)と費用負担が必要になる場合もある
こんなイメージになってきます。
決して脅かしではなく、ホントに このくらいのイメージになってくるのです。
歯科を含む 医療の全てには、上記のように メリット と デメリット があります。
はじめに提示した矯正治療であっても、歯並び改善による
・かみ合わせの改善
・口腔内の良好な予防環境の向上
・上記に付随する、審美要素の改善
というメリットを得るために、時には『 上下左右 合計4本の 小臼歯抜歯 』というデメリットを受け入れる必要になることもあります。
かつて『 芸能人は歯が命 』という言葉が流行りました。
Fさんの場合は『芸能人 』です。
上記の莫大なデメリットをもってしても、『芸能界にいる時間が大事だから、今が大事 』という本人の意思は尊重したほうがいいと個人的には思います。
しかし、若い世代への影響力の高い芸能人が このような発言をすると、芸能人ではない一般の若い方が、本質的な情報収集の乏しいまま 安易にマネをして、後になって泣きベソをかく事があります。
今回の炎上には、安易にマネをして泣きベソをかいた患者の『 尻ぬぐい治療 』が、多くの歯科医療側にとって最もやるせない思いになることが、背景にあるとおもわれます。
着ている服 や 髪型くらいであれば 損失も大きくはない事ですが、『セラミック矯正 』『クイック矯正 』は、しっかりメリット デメリット を十分に勘案しないと取返しのつかない事になりかねません。
大半の方が『 デメリットのほうが圧倒的に大きい 』と解釈して差し支えありません。
『セラミック矯正 』『クイック矯正 』をご検討のかたは、しっかりメリット デメリット を十分に勘案してご判断をしていただきたいと思います。
私自身が 過去にこのような施術を安易に受けたことで 惨めな結果になってしまった方に対し、やるせない思いで尻ぬぐい治療をした経験があります。
Fさんは 施術担当歯科医師から、通常は書面 最低でも口頭で『セラミック矯正 』『クイック矯正 』のメリット・デメリット、ならびに 若い世代への発言影響力が強いことを十分自覚するように、との説明・注意を十分に受けているはずです(よね?)。
その前提で Fさんが このような投稿を行ったのであれば、私自身は 大変残念に思います。
文責:万代総合歯科診療所 笛木 貴