日本における歯磨き粉へのフッ化物添加濃度許容量が上がった(950ppm ⇒ 1450ppm)こともあり、虫歯予防のためのフッ化物入り歯磨き粉の使用方法について、数年前より多くの歯科医院から Modified fluoride toothpaste technique(通称 イエテボリ法・イエテボリテクニック)と呼ばれる方法が紹介されているようです。
1.Modified fluoride toothpaste technique(通称 イエテボリ法・イエテボリテクニック)とは
Modified fluoride toothpaste technique(通称 イエテボリ法)は、新しいフッ化物応用方法として スウェーデンのイエテボリ大学歯学部で提唱されました。
この方法の具体的な手順としては
(1) 歯ブラシに約2cmの歯磨剤をつける
(2) 歯磨剤を歯面全体に塗り広げる
(3) 2分間ブラッシングをする
(4) 泡を保持する(泡は吐き出さない)
(5) 約10mlの水を含む
(6) 含んだまま30秒間洗口する(すすぐ)
(7) 吐き出す(水ですすがない)
(8) 最低2時間何も食べない
上記の流れになっています。
この方法は、『 口腔内への残留フッ化物濃度の維持・継続 』が 主たる目的です。
この方法は、その目的に対して大変有効な手段であると思います。
2.通称 イエテボリ法に関する見解
当院受診の患者さんからも、この方法について
『 従来の方法から変更したほうがいいのか? 』との問い合わせをいただくこともあります。
当院の方針としましては
『 実践していただいても 何ら問題ありませんが、ムリして変更しなくてもいいです 』
『その方法のかわりに こんな方法(※後述)もありますよ 』と伝えています。』
以下のことは 私見であることを前置きします。
参考程度としてください。
当院の患者さんに この方法にムリして変更しなくてもよい としている理由として、a~eを挙げたいと思います。
a
あくまでも虫歯予防の手段であること
b
虫歯予防において、前提とすべきこと・フッ化物応用よりも大事なことがあるのでは?
c
歯科医師・歯科衛生士の間でも、全員が採用していない
d
従来の方法でも、虫歯予防は十分達成できる
e
菌や食べかすが残る
a あくまでも虫歯予防の手段であること
この方法は、あくまでも歯科領域における二大疾患のうちの一つである虫歯予防に対しての手段です。
二大疾患のうち もう一つの歯周病に対して その対応ができるのは、(3) 2分間ブラッシングをする だけです。
患者側が『 イエテボリ法を実践すれば、虫歯も歯周病も予防できる 』と誤解して、歯磨き行為そのものを ないがしろにしてしまわないかということが懸念されます。
b 虫歯予防において、前提とすべきこと・フッ化物応用よりも大事なことがあるのでは?
虫歯予防のためには
① フッ化物の応用 に加えて
② 日々の歯磨き
③ 糖分摂取管理(甘いモノをむやみに摂らない)
この3つが主な手段となります。
今度は 虫歯予防のみに焦点を絞った場合であっても、『 虫歯予防に対して、フッ化物の応用が最も高い効果を発揮する 』とは思えない、と個人的に考えています。
もちろん、『フッ化物の応用は大切 』 と考えています。
『 フッ素は 無意味・危険・猛毒!! 』とは全く考えていません。
それでもなお、虫歯予防に対して、①フッ化物の応用 が最も高い効果を発揮するとは思っていません。
個人的な意見としましては、虫歯予防において フッ化物の応用の前提とすべきこと、フッ化物応用よりも大事なこと としましては、③ 糖分摂取管理と考えています。
研究論文の結果ではなく あくまでも臨床現場での感覚的なものですが、①:②:③ 重要度の比率は、25%:25%:50% と解釈しています。
虫歯予防に関して、自身または親が全くの野放し状態であれば、口腔内は当然の結果になります。
しかしながら、自身(または親)の歯磨き(指導)がおおむね問題なく、フッ化物応用も通常に行っているにもかかわらず、定期的な虫歯の発生が止まらない患者さんが、一定の割合で存在しています。
この方々の大半は、③ 糖分摂取管理に問題があります。(それ以外は、食いしばり等の歯に加わる異常な力・Powerの関与ですが、今回は割愛)
いくらフッ化物応用を頑張っても口腔内残留フッ素濃度を上げても、(歯磨きや)糖分摂取管理がおざなりのままであれば 虫歯予防は成立しない、と実感しています。
c 歯科医師・歯科衛生士の間でも、全員が採用していない
『 歯科医師・歯科衛生士にも、まだ広まっていない・浸透していない 』だけかもしれませんが、虫歯予防に関する専門的立場にいる歯科医師・歯科衛生士であっても、全員(または ほぼ全て)が 自身や家族に対してこの方法を忠実に採用しているわけではありません。
先日 歯科医師・歯科衛生士 合計9名が集まった会で、『 通称イエテボリ法を 自身と家族に採用しているか? 』と尋ねました。(対象数が9名と少ないので、統計学的な有効性はないと付け加えておきます。)
『 イエテボリ大学が提唱しているから・・ 』という権威的理由での採用はナシ(却下)としたところ、4名が採用・5名が不採用と回答しました。
私は不採用の回答でした。
したがって、私自身と家族は いまのところ この方法を採用していません。
私自身を含む不採用と回答した歯科医師が この方法を採用していない理由を、以下に挙げていきます。
d 従来の方法でも、虫歯予防は十分達成できる
上記①②③の方法は、従前(少なくとも私が歯科医師になる1993年より前)から提唱されている方法で、すでに確立されているものです。
もちろん、口腔内への残留フッ化物濃度の維持・継続 という意味では、更に改良された方法が提唱されたと解釈できます。
しかしながら、歯列矯正装置の装着中など 特殊な条件下でもない限り 従来のフッ化物応用方法でも何ら問題ないと思います。
新卒(20代)~私の世代(50代)も含め、親が歯科医師・歯科衛生士である歯科医師・歯科衛生士の場合、おおむね虫歯には悩まされていないことが多いです。
その方々ほぼすべてが、従来の方法で間に合っているはずです。
e 菌や食べかすが残る
通称 イエテボリ法 とよばれるフッ化物応用の歯磨き方法を再掲します。
(1) 歯ブラシに約2cmの歯磨剤をつける
(2) 歯磨剤を歯面全体に塗り広げる
(3) 2分間ブラッシングをする
(4) 泡を保持する(泡は吐き出さない)
(5) 約10mlの水を含む
(6) 含んだまま30秒間洗口する(すすぐ)
(7) 吐き出す(水ですすがない)
(8) 最低2時間何も食べない
この方法は 『口腔内への残留フッ化物濃度の維持・継続 』が目的であるので、従来の方法と比較すると
・使用する歯磨剤の量が増えた
・すすぎ と吐き出しを最小限にする
ということが特徴です。
しかしながら、この方法で すすぎを最小限にする ということは『その分 歯磨きによって こすり落とした菌や食べかすを 口腔内に残してしまう 』ことを意味します。
『キレイに洗浄されていれば、使用済みの便器を舐めることに問題はない 』ということは科学的に証明できます。(菌のレベルにおいては、口腔内のほうが汚いということです。詳細は割愛)
同様に、これらの菌や 食べかすも 口腔内に残り、胃の中に入っても何ら問題がない ということは理解していることが前提であったとしても、やはり 気分的には すすぎを最小限にすることによって 菌や食べかすが口腔内に残ることに抵抗がある という方もおられるかと思います。
3.別の手段はあるのか?
通称 イエテボリ法 は『口腔内への残留フッ化物濃度の維持・継続 』に関して改良された手段ではある一方で、その反面『 歯磨きによって こすり落とした菌や食べかすを 口腔内に残してしまう 』ということに抵抗を感じる方もおられるかと思います。
『口腔内への残留フッ化物濃度の維持・継続 』と『歯磨きによって こすり落とした菌や食べかすを最小限にする 』ことを両立させたいと願う方もおられるかと思います。
そのために 万代総合歯科診療所では、従来通りで問題ないと前置きしたうえで 通称 イエテボリ法の代案として以下の方法を提案しています。
(※)
1) 歯ブラシに歯磨剤をつける(量は任意)
2) 虫歯・歯周病予防目的の『 菌・食べかすをこすり落とすブラッシング 』をする
3) 結果として歯磨剤は歯面全体に塗り広がる
4) 必要十分量にすすぐ(すすぎの程度は任意)
以上、従来通りの方法(歯磨きによって こすり落とした菌や食べかすを最小限にできた)
以下、口腔内への残留フッ化物濃度の維持・継続の方法
5) 歯磨剤を清潔な指に乗せ、口腔内に含む(量は任意)
6) 含んだ歯磨剤を唾液に溶かして、歯面全体に行き渡らせる
7) 行き渡らせた状態を30秒間保持
8) 吐き出しのみ~自身が納得しうる最小限のすすぎを行う
9) 最低2時間何も食べない
通称 イエテボリ法での歯磨剤使用量が約2㎝なので、1) 5) 合計使用量は 最大2㎝と考えていただいて構いません。
8) で口腔内残留フッ化物濃度を最大限に高めたいので、5) での使用量は これを想定して判断してください。
欠点としては 多少手順が増えることですが、この方法であれば『口腔内への残留フッ化物濃度の維持・継続』と『歯磨きによって こすり落とした菌や食べかすを最小限にする 』ことを両立させることが可能になります。
以上、参考になれば幸いです。
文責:万代総合歯科診療所 笛木 貴